更新日 2026年11月1日
金融庁は東証プライム市場の大きな上場会社に、有価証券報告書(有報)の気候変動などの情報をSSBJ基準で書くよう義務づけました。義務は時価総額の大きい会社から順にかかり、その会社に製品やサービスを納める側にも、排出量を出してほしいという依頼が届くことがあります。
民間の団体SSBJが作ったSSBJ基準は、会社が投資家に情報を出す「開示」の日本の基準で、投資家が国をまたいで会社を比べられるよう、中身を国際基準のISSB基準にそろえています。書く先の有報は、上場会社が毎年出す事業と決算の報告書です。
| 会社 | 当てはまる目安 | いま手を付けること |
|---|---|---|
| 義務がかかる会社 | 東証プライム市場に上場し、直近5期末の時価総額の平均が1兆円以上。時価総額は証券会社や取引所のサイトの株価のページに出ている | 区分と最初の年度を確かめる |
| 次に義務がかかりうる会社 | プライム市場で、平均が1兆円未満 | いまは書かなくてよい。5千億円以上の会社へ広げる予定が出ている |
| スタンダード・グロース市場の会社 | スタンダード市場かグロース市場に上場 | 義務の外。対象はプライム市場だけ |
| 義務はないが取引先から求められる会社 | 義務がかかる会社に、製品やサービスを納めている | 自社の排出量を出せるようにしておく。どんな依頼が来るかは「問い合わせの実例」で見られる |
スタンダード・グロース市場の会社でも、取引先に頼まれているなら、「義務はないが取引先から求められる会社」として動きます。取引先など自社の外での排出をScope3と呼び、3兆円以上の会社がこれを測り始めるのは2028年3月期ですが、依頼はその前から届きえます。
日付は3月決算の会社のものです。
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2026年(済) | 金融庁が有報の書き方を決める開示府令を改正し、保証の義務を定めた改正金融商品取引法も公布された |
| 2027年3月期 | 平均3兆円以上の会社が書き始める。有報の期限は2027年6月末だが、SSBJ基準の部分だけは2027年11月までに訂正報告書で後から出せる。この二段階開示を使えるのは最初の2年だけ |
| 2028年3月期 | 1兆円以上3兆円未満の会社が書き始める。3兆円以上の会社は第三者保証が始まる |
| 2029年3月期 | 1兆円以上3兆円未満の会社も第三者保証が始まる。3兆円以上の会社は二段階開示が終わり、有報と同時に出す |
義務がかかる会社
義務はないが取引先から求められる会社
Q 義務の対象外でも、SSBJ基準で書けますか。
A 書けます。決まりが改正された2026年2月20日以後に出す有報から任意で使えると、金融庁は答えています。
Q 基準を下回った年度も、義務はかかりますか。
A その年度はかかりません。ただしプライム市場にいる限り、今後の議論で対象になる可能性があると金融庁は述べています。
府令の定め 金融庁は2026年2月20日に開示府令を改正し、新しい第19条の9で、一定の会社に有報の一部をSSBJの基準で書くよう求めました。対象になるのは、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄です。この欄の一部をほかの欄に書く場合も含み、この欄を直す訂正報告書にも同じ決まりがかかります。使う基準は金融庁の告示で指定したSSBJ基準で、市場の指定は金融庁告示第二号で行われ、指定されたのは東京証券取引所のプライム市場です。
区分ごとの根拠
| 平均時価総額 | 根拠 |
|---|---|
| 3兆円以上 | 開示府令の改正附則第2条 |
| 1兆円以上3兆円未満 | 開示府令第19条の9、改正附則第2条 |
| 5千億円以上1兆円未満 | 金融審議会の作業部会の報告(2026年1月) |
| 5千億円未満 | 金融審議会の報告 |
平均時価総額の計算 5つの事業年度末の時価総額を足して5で割り、有報が書く年度の1つ前の年度末までの5つで計算します。会社が前もって対象と分かるようにするための作りだと、金融庁は説明しています。このため、基準に届いた年度の翌年度から義務がかかります。3兆円以上の区分は、2026年3月31日以後に終わる年度の末日を5つの期末の最後として計算し、3月決算なら2022年3月末から2026年3月末までの5つです。
上場して5年度たっていない会社は、上場後に過ぎた年度末の時価総額の平均で判定します。時価総額は取引所の市場での額で、ほかの市場からプライム市場へ移った会社は、移る前の市場での時価総額も使います。合併や完全子会社化のときの合計の仕方は、開示ガイドライン5-2-2が決めています。
任意で使う場合 対象の会社でなくても、SSBJ基準で書くことはできます(第19条の9第2項)。対象の会社が、決まった年度より早く始めることもできます。
最初の年度の軽減措置 どの措置を使った場合も、使ったことを開示します。
| 措置 | 中身 | 使える年度 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 二段階開示 | SSBJ基準の部分を訂正報告書で出す | 初年度と2年目 | 開示府令の改正附則第2条第2項 |
| 比較情報の省略 | 前の年度の数字を並べなくてよい | 初年度 | 適用基準第93項、気候基準第102項 |
| 気候だけの開示 | 気候のリスクと機会だけを書く。2年目は、気候以外の比較情報が要らない | 初年度 | 適用基準第94項・第95項 |
| Scope3の省略 | Scope3を開示しない。金融機関の投融資先の排出の追加情報も含む | 初年度だけ | 気候基準第103項(2) |
| 前年の測り方の継続 | 前の年度にほかの方法で測っていれば、その方法を使える | 初年度だけ | 気候基準第103項(1) |
第103項の措置を使った場合、翌年度以降の比較情報でも、同じ扱いを続けられます(気候基準第104項)。
二段階開示の書き方 初年度に気候だけを書く場合、これまで載せていた気候以外の情報は二段階開示の対象にならないと、金融庁は答えています。そのため、1段階目の有報に書くことが考えられる、という回答です。2年目は、気候以外の情報も訂正報告書に書けます。
訂正報告書には、有報に書いた事項も含めて全部を書くこともできますし、有報の記載箇所を示して参照することもできると、金融庁は示しています。参照する書き方は、後発事象がない場合に限ります。公表を承認した日と準拠の表明は、2年目は訂正報告書に書くことになります。
Scope3の数字の責任 金融庁の開示ガイドライン5-16-2が、推計に頼る部分があるScope3の責任の扱いを示しました。合理的な範囲で具体的な説明があれば、後で誤りが分かっても直ちに虚偽記載の責任は負わないという内容です。
3つの基準 告示第三号が、次の3つを有報に使う基準として指定しました。SSBJ基準で書くときは、3つの基準の定めを全部まとめて使います(適用基準第91項)。
| 基準 | 決めていること |
|---|---|
| 適用基準:ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」 | 開示を作るときの土台のルール。報告する会社の範囲、比較情報、準拠の表明、誤りの直し方、経過措置など |
| 一般基準:テーマ別基準第1号「一般開示基準」 | テーマを問わず書く中身。ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標の4つ |
| 気候基準:テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」 | 気候について書く中身。シナリオ分析や温室効果ガスの排出量など |
2026年6月には実務対応基準第1号が公表されました。温対法の報告値を使うときの扱いを決めた基準で、2027年3月31日以後に終わる年度から適用されます。SSBJ基準を指定する告示は2026年5月19日と9月15日に改正され、9月15日の改正でこの基準も指定に加わりました。
気候基準で書く項目 気候基準では、気候のリスクと機会について次の項目を求めています。
温室効果ガスの排出量はScope1・2・3に分けて書き、測り方は原則として排出量算定の国際基準である2004年のGHGプロトコルに従います。Scope2は地域の平均の係数で計算したロケーション基準の量が必須で、Scope3はカテゴリー別に書きます。
有報の欄の冒頭に書くこと 府令の様式は、次の4つを書くよう定めています。
2026年3月の基準の改正 SSBJ基準は2026年3月13日に改正されました。ISSB基準の排出量の改正に合わせたものです。改正後の基準は2027年1月1日以後に始まる年度から適用され、3月決算では2つの版の義務の開始が1年ずれます。SSBJが改正の公表文で示した整理は次のとおりです。
| 3兆円以上の会社 | 2025年公表の基準の義務 | 2026年改正の基準の義務 |
|---|---|---|
| 3月決算 | 2027年3月期から義務。2026年3月期から早く使える | 2028年3月期から義務。2026年3月期から早く使える |
| 12月決算 | 2027年12月期から義務。2025年12月期から早く使える | 2027年12月期から義務。2025年12月期から早く使える |
有報と半期報告書の期限 有報の期限は、事業年度が終わってから3か月以内です(金融商品取引法第24条)。半期報告書の期限は、上場会社の多くで、半期が終わってから45日以内の政令で定める期間です(同第24条の5)。
ISSB基準との違い SSBJ基準は、ISSB基準の要求事項に、会社が選べる日本独自の扱いを加えています。
| 違いの種類 | 主な例 |
|---|---|
| ISSB基準に代えて選べる扱い | Scope2で、契約証書の情報の代わりに、契約を反映したマーケット基準の量を書ける。移行リスクなどの数値と割合の代わりに、規模の情報を書ける |
| 法令に合わせるための扱い | 法令が認めれば、財務諸表と別の時期に報告できる。二段階開示はこの扱いを使う。比較情報も、法令が認めれば省ける |
| 任意で使う会社向けの扱い | 財務諸表と別の書類や時期で開示でき、比較情報も省ける |
| ISSB基準にない定め | 数字の単位、公表を承認した日と承認者、根拠の法令の名前を書く。GHGプロトコル以外の方法で測った量の内訳を書く |
府令には、外国の会社がISSB基準などを使える規定があります(第19条の9第6項)。金融庁長官が認める場合に限ります。国内の会社がISSB基準を代わりに使う規定はありません。一方でSSBJ基準はISSB基準の要求をすべて取り入れており、日本独自の扱いを選ばなければ、ISSB基準にも準拠した開示になることを意図しています。
温対法の値の使い方 温対法の排出量の算定・報告・公表制度、いわゆるSHK制度について、気候基準第49項は、当局が別の測り方を求めている部分にその測り方を使うことを認めています。実務対応基準第1号は、SHK制度の値を使うときの扱いを次のように決めました。
Scope3はGHGプロトコルに従って測ります。Scope1と2の両方にSHK制度の値を使う場合、調整後排出量も任意の参考情報として書けるとSSBJは考えています。
第三者保証の水準と担い手 開示の義務化の翌年度から保証を求めるのは、改正金融商品取引法です。最初の2年間の範囲は金融審議会の報告によります。保証の水準は、合理的保証より手続きの範囲が狭い限定的保証です。保証業務提供者は登録制になり、監査法人以外も登録できます。
府令の上の開始年度 平均時価総額3兆円以上の会社は2027年3月31日以後に終わる年度から、1兆円以上3兆円未満の会社は2028年3月31日以後に終わる年度から、SSBJ基準で書きます。5千億円以上1兆円未満の会社について府令は未改正で、金融審議会の報告の方針では2029年3月期からです。
3月決算・平均時価総額3兆円以上の会社の日程 1兆円以上3兆円未満の会社は、この流れが全体に1年後ろへずれ、2028年3月期に義務が始まります。
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2026年2月20日(済) | 金融庁が府令を改正し、同じ日に施行した |
| 2026年3月末(済) | 判定に使う5つの期末の最後。この時点で、会社が対象かが決まった |
| 2026年7月23日(済) | 開示と保証の義務を定めた改正金融商品取引法が公布された |
| 2027年4月1日 | 改正金融商品取引法の開示・保証の部分が施行される |
| 2027年6月末まで | 会社が最初の有報を出す。二段階開示を選ぶなら、冒頭にその旨を書く |
| 翌期の半期報告書の期限の2027年11月まで | 二段階開示を選んだ会社が、SSBJ基準の部分を訂正報告書で出す |
| 2028年3月期 | 第三者保証が始まる。2026年改正の基準が義務になる。会社が二段階開示を使える最後の年度 |
上場して5年たっていない会社、合併した会社 上場して5年たっていない会社に、追加の猶予はありません。上場した年度の末日の時価総額が1兆円以上なら、翌年度の有報から義務になります。金融庁は、猶予を設けるのは比べやすさの点から適切でないと説明しています。過去5年度のうちに他の上場会社を合併した場合や、完全子会社にした場合は、効力が生じた年度より前の年度末について、両社の時価総額を合計します。
Scope3の算定のよりどころ Scope3を環境省・経済産業省のガイドラインで算定してよいかは、ガイドラインかどうかでなく、SSBJ基準の全ての定めに準拠しているかで決まります。金融庁は、SSBJ基準の全ての定めに準拠した開示を行う必要があると答えています。
温対法の値とScope3 実務対応基準第1号の扱いを選べば、温対法の報告値をScope1・2に使うときの調整は、期間を合わせるほかに要りません。温対法の報告にScope3はないため、Scope3は別に測ります。
保証の基準とISSB基準の改正 保証の基準を2027年3月末までに作ることが望まれる、とする意見書は案の段階です。ISSB基準が改正されたときの扱いについて、SSBJはすぐに検討を始める方針で、有報で使うには告示での指定が必要です。
| 時期 | 項目 | 状態 |
|---|---|---|
| 2029年3月期 | 平均時価総額5千億円以上1兆円未満の会社で義務が始まる | 金融庁の有識者の会議である金融審議会の、報告の方針。有報の書き方の決まりは未改正 |
| 未定 | 5千億円未満の会社への適用 | 開示の状況や投資家のニーズを踏まえて今後検討 |
| 未定 | 第三者保証で確かめる記載の、3年目以降の範囲 | 今後検討 |