ここが良い
- 炭素の値段の影響を、億円の幅で出しました。カーボンプライシング(排出量に値段をつける仕組み)が入った場合の影響を、2030年に約80~450億円、2050年に約40~410億円と試算しています。電力の削減で浮く額も2030年に約40~60億円と並べており、損と得の両方の大きさが分かります。
- 「軽微」「重要」の線を、売上高の割合で決めました。売上高の±10%以上の変動になりうるものを「非常に重要」、±5~10%程度を「重要」、±5%未満を「軽微」としています。リスクの表は大半が「軽微」ですが、線の引き方が書いてあるので、読み手は「軽微」がどのくらいの大きさかを自分で確かめられます。
- 洪水などの危険を、資産の割合で示しました。国内外の拠点を調べた結果、河川洪水や高潮の危険が中程度以上の拠点は4つで、その資産は総資産の約3%と書いています。「危ない拠点がある」で終わらせず、会社全体に対する重さまで数字で示しています。
ここが物足りない
- 短期の区切りが、この有報の年で終わっています。時間軸(短期・中期・長期が何年までか)は「短期:~2025年」「中期:~2030年」「長期:2030年~」です。対象の事業年度も2025年なので、この有報が出た時点で短期はすでに過ぎており、2026年からの短期がどこまでかは書いていません。
- Scope3は2つの区分だけです。Scope3(取引先や製品の使用まで含めた排出)として載っているのは、原材料の購入(カテゴリー1)と売った製品の使用(カテゴリー11)の合計4,877千t-CO2eです。残りの区分を入れたかどうかも、外した理由も書いていません。
- 気候について取締役会がどう監督するかが分かりません。気候の議論は気候変動ワーキンググループからサステナビリティ委員会に上がり、最後はCEOに報告されます。SSBJ基準は監督する機関とその関わり方を書くよう求めていますが、取締役会が報告を受ける流れは、リスクマネジメント委員会を通るものしか書いていません。
SSBJが求めること と この会社
| 項目(SSBJが求めること) | この会社 | 評価 |
時間軸 短期・中期・長期が何年かを決めて書く | 短期~2025年、中期~2030年、長期2030年~。短期は当期で終わる | ○ |
財務への影響 気候が売上・費用・資産に与える影響を、できれば金額で書く | 炭素価格の影響を2030年に約80~450億円と試算。洪水などの危険がある拠点は総資産の約3% | ○ |
シナリオ分析 気温が上がる道筋をいくつか置いて、会社が耐えられるかを見る | 「現行シナリオ」と「1.5℃シナリオ」の2つ。IEA、NGFS、IPCCの道筋を使う | ○ |
Scope1・2 自社が出した温室効果ガスの量を書く | 2025年は1,000千t-CO2e | ○ |
Scope3 取引先や製品の使用まで含めた量を書く(初年度は省略できる) | カテゴリー1と11だけで4,877千t-CO2e | △ |
移行計画 排出を減らしていく道筋を書く(ある場合) | 2050年にネットゼロ、2030年にScope1・2を2022年比42%減の目標と取り組みを並べる。道筋としてまとめた節はない | △ |
産業別の指標 業種ごとに決まった指標を書く(SASBがもと) | 書いていない。独自の「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数」はある | × |
第三者保証 外部の機関が数字を確かめたか | 2025年の温室効果ガスの排出データを第三者機関が検証 | ○ |
経過措置 初年度に使える省略(比較情報、Scope3など)を使ったと書いているか | 書いていない | × |
110社の中での位置
SSBJ基準を「参考にした」と書いた会社は110社中26社で、このうち気候の財務影響を金額で書いたのはキヤノンを含む4社です。110社全体でも金額を書いたのは16社で、キヤノンは金額を出した少数の側に入ります。SSBJに触れた110社の一覧
原文
- 戦略:「気候変動開示部分については、SSBJの「サステナビリティ開示テーマ別基準第2号 気候関連開示基準」を参考にしています。」
- 戦略:「2030年以降のカーボンプライシングの導入を想定した場合の影響額は、現行シナリオ、1.5℃シナリオの炭素価格を使用した場合、2030年で約80~450億円、2050年で約40~410億円と試算しています。」
- 戦略:「短期:~2025年 中期:~2030年 長期:2030年~」
- 戦略:「これら4拠点の資産額が当社グループ総資産に占める割合は約3%です。」
- ガバナンス(サステナビリティ共通):「委員会で審議した結果は、CEOに報告を行いました。」