更新日 2026年11月3日
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、脱炭素への移行で貸出先が傷んだときの与信費用(貸し倒れなどに備える費用)を、シナリオ分析で「5,500億円程度」と金額で示しました。一方で、当期はSSBJ基準(日本のサステナビリティ開示の基準)の「すべての定めには準拠していません」と書き、外部の保証も受けていません。
良い点は、シナリオ分析を金額で示したこと、時間軸の理由を書いたこと、役員報酬への効き方を数字で書いたことの3つです。
シナリオ分析の結果を金額で出した。炭素価格の上昇などで貸出先の格付が下がる影響を2050年まで見て、累積与信費用を「5,500億円程度」と出しました。洪水の影響は2100年まで見て「3,000億円程度」です。同じ銀行のみずほは、同じ種類の分析の結果を「期間損益の範囲内」と言葉で書くだけです。
時間軸の区切りに理由を書いた。中期経営計画は3年ですが、気候などのリスクはより長い要因で生じるとして、中期の上限を5年にしています。年数だけでなく、なぜその年数にしたかが読めます。
役員報酬への効き方を数字で書いた。株式報酬の業績連動部分で、ESG評価の評価ウェイトを10%とし、そのうち自社のGHG排出量の削減を2.5%としています。排出を減らすことが報酬にどれだけ効くかが分かります。
足りないのは、基準への準拠、外部の保証、業種ごとの指標の3つです。
当期は準拠していない。「2027年3月期からのSSBJ基準の適用に向けて準備を進めて」いるとし、当期は基準の定めを社内で検討して作りました。比較情報(前の年度の数字)は載せていませんが、経過措置を使ったとは書いておらず、根拠の条文もありません。
外部の保証がない。指標の表の多くには「第三者認証なし」とあります。キリンは、Scope1・2排出量などについてKPMGあずさサステナビリティの限定的保証を受けています。
業種ごとの指標を使わない。商業銀行などの産業別ガイダンスの指標は、自社が使う指標と異なるとして「これらの指標を適用していません」と書いています。キリンは、指標の表で産業別ガイダンスの指標に印を付けています。
| 項目(SSBJが求めること) | この会社 | 評価 |
|---|---|---|
| 時間軸 短期・中期・長期が何年かを決めて書く | 短期は1年以内、中期は1年超5年以内、長期は5年超。理由つき | ○ |
| 財務への影響 気候が売上・費用・資産に与える影響を、できれば金額で書く | 当期は「重要な影響は識別されておりません」。将来の影響は数字を出していない | △ |
| シナリオ分析 気温が上がる道筋をいくつか置いて、会社が耐えられるかを見る | 移行リスクの累積与信費用は5,500億円程度、洪水の2100年累積与信費用は3,000億円程度 | ○ |
| Scope1・2 自社が出した温室効果ガスの量を書く | Scope1は26千t-CO2e、Scope2(マーケット基準)は101千t-CO2e | ○ |
| Scope3 取引先や製品の使用まで含めた量を書く(初年度は省略できる) | カテゴリー15(投融資先)だけ。1,357,610千t-CO2e | △ |
| 移行計画 排出を減らしていく道筋を書く(ある場合) | GFANZ(ネットゼロを目指す金融機関の連合)の枠組みで作成。投融資の2050年目標は対象の定義がまだ | ○ |
| 産業別の指標 業種ごとに決まった指標を書く(SASBがもと) | 自社の指標と異なるとして、適用していない | × |
| 第三者保証 外部の機関が数字を確かめたか | 受けた旨の記載はない | × |
| 経過措置 初年度に使える省略(比較情報、Scope3など)を使ったと書いているか | 比較情報は載せていないが、経過措置を使ったとは書いていない | △ |
MUFGは、SSBJに触れた110社の一覧で「一部を適用」に入る3社の1社で、準拠を表明した2社には入りません。移行計画を書いた22社と、役員報酬との連動を書いた28社に入る一方、お金の影響を金額で書いた16社には入っていません。