更新日 2026年11月3日

開示の事例|2026年3月期の有価証券報告書

日本高純度化学、SSBJ基準と化学製品の産業別ガイダンスを参照 財務影響の金額とScope3はなし

日本高純度化学は上場企業を売上高で並べると2,380位の会社ですが、有価証券報告書(有報)のサステナビリティの欄の1行目で、SSBJ基準と化学製品の産業別ガイダンスを参照すると書いています。移行計画は取締役会の承認と社長の責任まで書いた一方、お金への影響は言葉だけで、Scope3には触れていません。

開示の事例日本高純度化学

ここが良い

よりどころの基準を、欄の1行目で名指ししています。冒頭の文で、SSBJ基準(日本のサステナビリティ開示の基準)に加えて、産業別ガイダンス(業種ごとに開示する項目をまとめた手引き)の「化学製品(RT-CH)」まで挙げています。SSBJ基準で書く義務は平均時価総額1兆円以上の会社から始まるので、売上高約181億円のこの会社は義務の外から自分で寄せています。110社でも、業種の指標に触れたのは25社です。

移行計画を、誰が承認し、誰が責任を持つかまで書いています。移行計画(排出を減らしていく道筋)と気候の目標は、2024年3月の取締役会で承認しました。社長はサステナビリティ委員会の議長で、計画を実行するための「十分な権限と情報へのアクセス権」を持つと書いています。SSBJ基準が求める「監督する機関」と「経営者の役割」を、移行計画に結びつけて書いた形です。

計画が遅れる原因を、自分から書いています。排出の削減は「課題や不確実性は想定されず」としたうえで、環境に配慮した製品の開発と電池材料への応用には「大規模な投資が必要」で、資金と人の確保が前提だと書いています。どこが崩れると計画が遅れるかが、読み手に分かります。

ここが物足りない

お金への影響を金額で書いていません。J-クレジット(国が認証する排出削減の証書)の購入は「財務インパクトは殆ど発生しない」、製品開発は「大規模な投資が必要」と書きますが、どちらにも金額がありません。SSBJ基準は財務への影響をできれば金額で示すよう求めており、日本航空は影響の大きさを30億円と300億円で区切って示しています。

排出量の数字が基準年の1つしかありません。欄の文章に出てくる排出の数字は、2022年度の「167t-CO2」だけです。しかもエネルギー使用量を20%減らす目標の基準として出てくるので、排出量の目標と混ざって見えます。Scope3(取引先や製品の使用まで含めた排出)には一言も触れておらず、初年度に使える省略(経過措置)を使ったとも書いていません。

化学製品の手引きを掲げながら、業種の指標が見えません。欄の中で指標として挙げているのは、GHG排出量とエネルギー使用量の2つです。「化学製品(RT-CH)」の指標として示した数字はなく、冒頭の宣言と中身の間に差があります。

SSBJが求めること と この会社

項目(SSBJが求めること)この会社評価
時間軸
短期・中期・長期が何年かを決めて書く
短期1年、中期3年、長期5年。シナリオの節では長期を2030年と書く○
財務への影響
気候が売上・費用・資産に与える影響を、できれば金額で書く
「殆ど発生しない」と言葉だけ△
シナリオ分析
気温が上がる道筋をいくつか置いて、会社が耐えられるかを見る
IEAのNZE2050とIPCCのRCP8.5。2つの軸で耐える力を見た○
Scope1・2
自社が出した温室効果ガスの量を書く
数字は基準年2022年度の167t-CO2だけ△
Scope3
取引先や製品の使用まで含めた量を書く(初年度は省略できる)
触れていない×
移行計画
排出を減らしていく道筋を書く(ある場合)
2030年にScope1・2をカーボンニュートラル。省エネで20%、残りはJ-クレジット等。取締役会が承認○
産業別の指標
業種ごとに決まった指標を書く(SASBがもと)
参照と書くが、指標の数字はない△
第三者保証
外部の機関が数字を確かめたか
書いていない×
経過措置
初年度に使える省略(比較情報、Scope3など)を使ったと書いているか
書いていない×

110社の中での位置

SSBJ基準に触れた110社のうち「参考にした」段階の26社で、産業別の指標と移行計画の両方に触れたのは、熊谷組、電通グループ、日本高純度化学の3社だけです。売上高300億円未満の9社に限ると、一覧の点検項目のうち4つ以上を満たした会社は、ほかにありません。

SSBJに触れた110社の一覧

原文

節原文
欄の冒頭「当社のサステナビリティに関する考え方及び取組みはSSBJ開示基準および産業別ガイダンス『化学製品(RT-CH)』を参照しております。」
ガバナンス「気候関連事項のうちの移行計画及び関連する気候関連目標を2024年3月の取締役会にて承認しました。」
戦略「当社のGHG排出量は極めて少ないため、クレジット購入による財務インパクトは殆ど発生しないものと考えられます。」
リスク管理「これら2つの技術開発を計画通り進めるためには、まず十分な資金の確保、人材の配置等が前提となります。」

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