更新日 2026年11月1日
国際的な開示基準を作るISSBが、自然への依存や影響が会社の見通しにどう効くかを投資家向けに書く、自然関連の開示の案を公表しました。土台は自然の開示の枠組みを作ったTNFDの提言で、TNFDに沿った開示を始めると表明した企業の登録数は日本が世界最多です。ただ、上場会社が毎年国に出す有価証券報告書、いわゆる有報で使えるのは金融庁が指定した日本のSSBJ基準で、案はその指定に入っていません。
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2025年3月(済) | ISSBを置くIFRS財団とTNFDが覚書を結び、TNFDの枠組みを土台にすることで合意する |
| 2026年10月22日(済) | ISSBが公開草案(意見を集めるために出す案)を公表し、意見の募集を始める |
| 2027年2月19日 | 会社や関係者が意見を出す締め切り |
| 使っている枠組み | 確かめるところ | 案への向き合い方 |
|---|---|---|
| ISSBの基準をすでに使う会社 | 統合報告書などで、ISSBの全般の基準S1号と気候の基準S2号への準拠を書いている | 案を選んで使える。使うかどうかを決める |
| TNFDに沿って開示している会社 | TNFDのサイトの表明企業の一覧、TNFD Adoptersに社名がある | 案との差を洗い出す |
| 有報でSSBJ基準の開示をする会社 | 東証プライム市場の大きな会社。始まる年度は「時価総額の区分ごとの適用年度」で確かめる | 自然が自社にとって重要かを見極める |
| どれも使っていない会社 | スタンダード・グロース市場の会社や、プライムでもSSBJ基準の対象に入らない会社で、ISSB基準もTNFDも使っていない | SSBJ基準で自然の扱いが決まるかを見ておけばよい |
案は基準ではなく、使うかを会社が選べる実務記述書という形で、義務づけるかは各国が決めます。ISSBは、TNFDに沿って開示してきた会社を、案を使いやすい立場と見ています。有報の会社でTNFDにも沿って開示しているなら、義務のある有報の準備を先にします。
Q 案は任意の実務記述書です。自然の開示はしなくてよいのですか。
A しなくてよいとは限りません。S1号は、自然を含むすべてのサステナビリティのリスクと機会について、重要な情報の開示をすでに求めており、案を使わなくてもこの要求は変わりません。実務記述書は要求や手引きを示す文書で、使わなくてもISSB基準には準拠できます。
Q 今のTNFDの開示を続ければ、そのまま準拠になりますか。
A そのままでは準拠になりません。ISSBは、TNFDに沿った開示を続けることが案への準備としてよい方法だと述べていますが、重要性(投資家の判断に影響するか)などはS1号の考え方で判断し、案の要求に沿って開示します。
Q 要求の一部だけを満たした段階で、使い始めてよいですか。
A 使い始められます。全部の要求を満たす方向に進みながら使えますが、準拠を表明できるのは全部の要求を満たしたときだけです。
案の位置づけ 今回の案は「IFRSサステナビリティ開示実務記述書第1号『自然関連開示』」の公開草案、いわゆるEDで、文書番号はISSB/ED/2026/1です。基準ではなく実務記述書の形をとり、TNFDの枠組みを広く取り入れています。
案の第1項が掲げる目的は、自然に関するリスクと機会について、投資家などに役立つ情報の開示を助けることです。S1号とS2号に上乗せする要求を定め、S1号とS2号の要求そのものは変えません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が | 自然に関するリスクと機会の開示の要求。ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの分野ごとに定める |
| 形 | 実務記述書の案。基準として出すかどうかも、意見の募集で問うている |
| 土台 | TNFDの提言、指標、追加の手引き |
| 条件 | 対象か |
|---|---|
| IFRS S1号とS2号を使う会社 | 選んで使える。初めて使う日までに、S1号とS2号を使っていることが条件 |
| 各国の規制 | 使うよう義務づけるかは、各国が決める |
| 日本で有報を出す会社 | 有報で使える基準は、金融庁の告示で指定したSSBJ基準。案はこの指定に入っていない |
| TNFDの提言に沿って開示している会社 | 案の土台がTNFD。ISSBは、TNFDに沿った開示を続けることが案への準備としてよい方法だと述べている |
案ができるまで 意見の募集は120日間です。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2024年4月 | ISSBが「生物多様性、生態系及び生態系サービス」の研究プロジェクトを作業計画に加える |
| 2025年12月 | ISSBが研究から、要求を定める段階に進むと決める |
| 2026年7月21日 | ISSBの12人の委員全員が、必要な手続きを済ませたと確かめる |
日本の有報での扱い 2023年1月の内閣府令の改正で、有報に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄ができました。ガバナンスとリスク管理は必ず書く事項で、戦略と指標及び目標は重要性に応じて書きます。
SSBJは、案の公表を受けて内容の案内をウェブサイトに載せました。日本語訳は、訳し終えたら公表するとしています。
SSBJの方針では、ISSB基準が新しく出たり改正されたりすると、扱いの検討を速やかに始めます。2026年6月11日の「今後の計画」に挙がっていたのは、SASBスタンダードの修正だけです。
環境省はTNFDと組み、企業向けの勉強会やモデル支援をしています。2026年7月10日には、LEAPの演習を含む催しを東京で共催しました。
実務記述書と基準の違い 実務記述書は、IFRS財団が要求や手引きを出すときの既存の形の1つです。作る手続きは基準と同じで、公開草案を出し、基準と同じ期間、意見を集めます。
| 論点 | 案の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| ISSB基準への準拠 | 実務記述書を使わなくても、ISSB基準に準拠していると言える | 案の第3項 |
| 使った場合の効果 | 準拠を表明すれば、財務報告への効果はISSB基準を使った場合と同じ | 質問11の説明 |
| 各国の採用 | 義務にしなくても、ISSB基準を採用した国と扱われる。義務にも任意にもできる | 案のIN9項 |
| 将来の形 | のちに基準として出す可能性がある。単独の基準か、S1号の付録などの形。その場合も意見の募集を経る | 案のIN9項 |
ISSBは、基準にしなかった理由を説明しています。多くの会社と国がS1号とS2号を導入している途中で、新しい基準を出せばその導入を乱すおそれがある、という判断です。
ISSBが比べた別の形は、S1号やS2号の改正と、新しい単独の基準です。意見の募集では、どの形がよいかを問い、基準にすべきと考える人には適用の日も尋ねています(質問11)。ISSBは実務記述書を出したあとの使われ方も見ていく予定で、そのうえで基準として出すかを判断する可能性があります。
案が加える開示の要求 案の要求は、S1号の4つの分野に上乗せする形で、S1号とS2号にある内容はくり返していません。
| 分野 | 案が加える主な要求 | 根拠 |
|---|---|---|
| ガバナンス | 監督する取締役会などと経営者が、場所の事情と、先住民族などとの関わりを考慮しているか、どう考慮しているか | 第15項 |
| 戦略・リスクと機会 | 場所の事情の説明。関わる人々の集団の特定。自然と気候のリスクと機会のつながりの説明 | 第17項 |
| 戦略・ビジネスモデル | リスクと機会が、バリューチェーンのどこに集中するか。自然と気候の影響が打ち消し合うか、強め合うか | 第18項 |
| 戦略・意思決定 | 対応の内容と計画。移行計画の一部かどうかを問わない。資源の手当て。自然と気候の対策のぶつかり合いと相乗効果 | 第19項 |
| レジリエンス | 自然のシナリオ分析を使い、戦略とビジネスモデルの強さを評価する | 第20項〜第24項 |
| リスク管理 | 場所や、先住民族などとの対話を、リスクの特定と評価にどう使うか。シナリオ分析をどう使うか | 第26項〜第28項 |
| 指標 | 自然関連リスクにさらされる資産・事業活動の額と割合。自然関連機会に沿う資産・事業活動の額と割合 | 第30項 |
| 目標 | 目標ごとに、何についての目標か、場所に関わる面、法令との関係 | 第34項 |
場所と先住民族などとの関わり 会社は、情報をどの地理的な範囲でまとめて示すかを考えます。まとめ方や分け方を決めるときにも、場所の特徴を考えます(質問4)。案の第B32項は、注意が要る場所の例を挙げています。
先住民族などとの関わりでは、案は例を示しています。たとえば、その人々が持つ環境資源を使う活動で、同意を得たかどうかです。案はこの同意を「Free, Prior and Informed Consent」と呼び、自由な意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を指します(第18項)。
シナリオ分析と指標 シナリオ分析は、将来の自然の変化について複数の筋書きを置き、事業への影響を調べる方法です。案では、その会社の状況に見合った方法で構いません。定性的なシナリオの記述のような、簡単な方法も認めています(第B64項・第B65項)。
シナリオ分析では、次のことも開示します(第24項)。
指標のうち額と割合は、場所ごとに分けて示すこともできます(第31項)。たとえば、生物多様性に重要な地域や、水不足の地域の近くにある資産です。ISSBは、これらの指標がS2号の気候の指標に合わせたものだと説明しています。
ISSBは、TNFDの「中核の全世界共通の指標」を義務にするかを問うています(質問9(d))。例は、土地の利用の面積や、水不足の地域での取水量です。案の段階では、義務にしていません。
参照する資料は第30項が決めています。ISSBが管理する業種別のSASBスタンダードは、指標が当てはまるかを考えることが求められ、TNFDの指標は参照してよい資料として新しく加わります。EUのESRSとGRIスタンダードも、引き続き参照できます。
準拠の表明にも決まりがあります(第35項〜第38項)。ISSB基準と実務記述書の要求をすべて満たしたときだけ、実務記述書に準拠したと言えます。法令で開示が禁じられた情報は、省けます。機会についての商業上の機密も、省ける場合があります。リスクの情報は、機密を理由に省けません。
リスクと機会の見つけ方とLEAPアプローチ リスクと機会を見つけるとき、会社は2つのことを考えます(第10項)。1つは、バリューチェーン全体での資産と活動の場所で、その場所の自然の特徴も含みます。もう1つは、先住民族、地域社会、影響を受ける関係者との関わりです。どちらも、過大な費用や労力なしに手に入る情報の範囲で考えます。
案は、TNFDが2026年に出したLEAPアプローチの第2.0版を挙げています。
Pの段階は、TNFDの推奨する開示に沿って報告に備えるものです。案を使う会社は、案の要求に沿って開示します。このためISSBは、Pの段階は関係しにくいと見ています(BC102項)。ISSBは、LEAPアプローチの言葉と考え方が、ISSB基準と全部は一致しないと述べています。
LEAPアプローチで分析していなくても、準拠は表明できます。案の第12項により、LEAPアプローチを使う義務はありません。使う場合は、S1号の目的に合う形で使います。
案の範囲と言葉の定義 案の範囲は、会社の見通しに影響すると合理的に見込まれる、自然に関するリスクと機会です(第4項〜第7項)。見通しとは、短期・中期・長期のキャッシュフロー、資金の調達、資本のコストを指します。影響が見込まれないリスクと機会は、範囲の外です。
| 判定の項目 | 案の基準 | 根拠 |
|---|---|---|
| 使える会社 | 初めて使う日までに、S1号とS2号を使っている会社 | 附録C第C1項 |
| 範囲に入るリスクと機会 | 会社の見通しに影響すると合理的に見込まれるもの | 第4項、第7項 |
| リスクの種類 | 物理的リスクと移行リスク。開示で2つを分けて書く必要はない | 第6項、質問2 |
案の附録Aは、6つの言葉を定義しています。
| 言葉 | 案の定義の要点 |
|---|---|
| 環境資源 | 経済などの便益を生む可能性のある、自然環境の生物と非生物の要素。天然資源、生態系、大気の系からなる |
| 生態系サービス | 生態系が、人の活動に使われる経済などの便益にもたらす寄与 |
| 自然関連リスク | 環境資源などへの、自社と他者の依存と影響から生じる、会社への悪い影響の可能性 |
| 自然関連の物理的リスク | 会社が依存する環境資源などの質、量、手頃さの変化から生じるリスク。急性、慢性、周期的な変化を含む |
| 自然関連の移行リスク | 環境資源の変化を和らげ、適応する取り組みから生じるリスク。政策、法、技術、市場、評判のリスクを含む |
| 自然関連機会 | 依存と影響から生じる、会社への良い影響の可能性 |
TNFDの言葉は「環境資産」ですが、案は「環境資源」を選びました。会計の基準でいう資産の定義に、必ずしも当てはまらないためです(質問2)。
初年度の扱いと負担の軽減
| 項目 | 案の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 使える日 | 最終版の公表の日から。案では日付を空欄にしている | 附録C第C2項 |
| 初めて使う日 | 会社が初めて使う日で、年度の初めでなければならない | 附録C第C1項 |
| 前の期間 | 初めて使う日より前の期間について、開示しなくてよい | 附録C第C3項 |
| 比較情報 | 初めて使う年度は、実務記述書の開示について前年度の数字を並べなくてよい | 附録C第C3項 |
| ISSB基準の比較情報 | 上の措置は、ISSB基準が求める比較情報には及ばない。ISSB基準がもともと求める比較情報は、これまでどおり必要 | 附録C第C4項 |
| 強制の時期 | 実務記述書に強制の適用日はない。義務にするか、いつからかは各国が決める | 案のIN9項、概要版 |
2つの開示では、過大な費用や労力なしに手に入る情報を使えば足ります。資産などの額と割合の指標(第33項)と、シナリオ分析(第B49項〜第B66項)です。シナリオ分析には、S2号の気候のシナリオ分析と同じ緩和が使えます。
意見の出し方 案が出たのは、アルメニアで2026年10月19日から30日まで開かれた生物多様性条約の第17回締約国会議、COP17の会期中でした。意見は、オンラインの調査票か、電子メールで commentletters@ifrs.org に出します。質問は17問あり、全部に答える必要はありません。出した意見は、原則としてウェブサイトで公開されます。
案には、ISSBが案を決めた理由を述べた「結論の根拠」と、付属の手引きがついています。手引きには、場所の情報の示し方の例が4つあります。
TNFD、SASB、ESRS・GRIとの関係
| 制度 | 案との関係 |
|---|---|
| TNFDの提言 | 案の土台。案とTNFDの提言の対応表は、IFRS財団が後日出す予定 |
| IFRS S2号 | 自然と気候のつながりを、まとめて示すよう求める。重複は避ける(第13項) |
| SASBスタンダード | 業種別の指標の資料。ISSBは、農業の土地利用などの指標を見直す別のプロジェクトでも、TNFDの指標を使っている |
| ESRS・GRI | 参照できる資料。ESRSはLEAPアプローチに触れ、2024年の生物多様性の基準GRI 101もLEAPの利用を認めている |
TNFDの提言は、投資家以外の利用者も考え、異なる重要性の考え方で使えるように作られています。案では、重要性やまとめ方などに、S1号の考え方が当てはまります(BC63項)。ISSBによると、TNFDの枠組みを採用した組織は、2026年9月時点で世界に800を超えます(BC61項)。
| 時期 | 中身 | 状態 |
|---|---|---|
| 未定 | 寄せられた意見の検討。実務記述書で確定するか、基準など別の形にするかの判断 | ISSBが今後決める |
| 未定 | 最終版の公表と、使える日 | 案では空欄 |
| 未定 | 日本での扱い。有報で案を使えるか、義務にするか、SSBJが日本の基準に取り込む検討をするか | 未定 |