更新日 2026年11月1日
EUの電池規則は、製品に組み込んだものも含め、域内で市場に出る電池の製造者や輸入業者などに、有害物質、温室効果ガスの量、再生材、表示、回収などの義務を課しています。材料の採掘から回収・リサイクルまで、電池の一生を通じて環境と人権への負担を減らし、材料を使い回すための規則です。次の節目は2027年2月18日で、電池1個ごとの電子の記録、電池パスポートが始まります。
| 電池との関わり | 確かめ方 | 用意するもの |
|---|---|---|
| 電池や電池入りの製品をEUで売る会社 | EU向けの製品に電池が入っている。仕向け地は輸出の通関書類で確かめる | 電池の区分ごとに、表示、電池パスポート、EUの要件に合うことを示すCEマークなどの義務を満たす |
| EU向けの電池に使う部品・素材を納める会社 | 納める先の電池がEUで売られるかを、納める先に確かめる。コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルを扱っているか | 原材料の調達の記録と、排出の算定に使うデータを用意する |
| EU向けの電池に関わらない会社 | EU向けの電池にも、その部品にも関わっていない | EU向けの製品に電池を入れる計画が出たら、1行目の義務を見る |
電池の区分は、ポータブル、電動自転車やキックボードなどのLMT用、エンジン始動用のSLI、EV用、据え置き型の蓄電を含む産業用の5つです。日本企業が当たりやすいのは、求められる情報の多くを持つ上流の2行目の立場で、部品・素材メーカーが直接負う義務は条文に書かれていません。1行目にも当たる会社は、自社に義務がかかる売る側の準備が先になります。
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2024年2月18日(済) | 規則の適用が始まり、適合の審査や表示の義務が順に始まる |
| 2027年2月18日 | 市場に出す事業者が電池パスポート、QRコード、取り外しと交換の要件を満たす |
| 2027年8月18日 | 対象の事業者が原材料のデューデリジェンスを始める |
| 2031年8月18日 | 対象の電池が、廃棄物から回収した再生材の最低の割合を満たす。第1段階 |
| 2036年8月18日 | 再生材の最低の割合の第2段階。LMT用も対象に入る |
Q 単体の売上高が基準に届かない子会社でも、デューデリジェンスの対象になりますか。
A 単独の売上高だけでは決まりません。グループに属するなら、連結の売上高で判断します。
Q 電池パスポートが始まる時点で、全項目を埋める必要がありますか。
A 必要ありません。欧州委員会のFAQによると、電池の種類や技術上の関係で、当てはまる項目だけのものがあります。
規則のあらまし 正式な名前は規則(EU)2023/1542です。それまでの電池指令2006/66/ECを置き換え、加盟国の法律に移し替えずにそのまま効力を持ちます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が | 電池の有害物質、カーボンフットプリント、再生材、性能、表示、電池パスポート、原材料のデューデリジェンス、回収とリサイクル |
| 改正 | 規則(EU)2025/1561で、デューデリジェンスの開始を2025年8月18日から2年延期 |
| 所管 | 欧州委員会。算定の方法や様式の多くは、欧州委員会の委任規則と実施規則という下位の法令で定める |
| 条件 | 対象か |
|---|---|
| 電池をEUの市場に出す製造者、輸入業者、販売業者など。製品に組み込んだ電池も含む | 対象。規則の義務を負う |
| 輸入したセルやモジュールを、EUで電池に組み立てる事業者 | EUで電池を完成させた事業者が製造者になる |
| 電池を組み込んだ製品を輸入する事業者 | 電池パスポートの責任は、ふつう輸入業者にある |
| 前々年度の純売上高が4,000万ユーロ以上の事業者。グループは連結で判断 | 原材料のデューデリジェンスの対象 |
| EUの外の部品・素材メーカー | 規則の義務を直接負うとは書かれていない。義務を果たすための情報を求められうる |
発効から2036年まで
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2023年8月17日 | 規則が発効 |
| 2024年2月18日 | 規則の適用が始まる |
| 2024年8月18日 | 製造者などが適合の審査を受け、CEマークを付ける |
| 2025年8月18日 | 製造者などがすべての電池に分別回収の記号を付ける |
| 2026年7月20日 | 電池パスポートなどを登録するEUの登録簿が動き始める |
| 2027年2月18日 | 電池パスポート、QRコード、取り外しと交換の要件 |
| 2027年8月18日 | 原材料のデューデリジェンスが始まる |
| 2027年12月31日 | リサイクルの事業者が材料の回収の目標の第1段階を満たす |
| 2028年12月31日まで | 欧州委員会が再生材の目標の見直しを評価する |
| 2030年12月31日まで | 欧州委員会がカーボンフットプリントの要件をポータブル電池に広げるかを評価する |
| 2031年8月18日 | 対象の電池が再生材の最低の割合の第1段階を満たす |
| 2031年末 | リサイクルの事業者が材料の回収の目標の第2段階を満たす |
| 2036年8月18日 | 対象の電池が再生材の最低の割合の第2段階を満たす。LMT用も対象 |
電池の区分 規則は、電池を5つの区分に分けます(第3条)。形、重さ、化学の種類、用途は問わず、製品に組み込んだ電池も対象です(第1条第3項)。
| 区分 | 判定の基準 |
|---|---|
| ポータブル電池 | 密閉され、5kg以下。産業用に設計されたものでなく、EV用、LMT用、SLIにも当たらない |
| LMT電池 | 密閉され、25kg以下で、電動の自転車やキックボードなど車輪のある乗り物を動かす電池。EV用電池は除く |
| SLI電池 | SLIは始動・照明・点火のこと。車や機械のエンジンの始動などに電力を送る電池 |
| EV用電池 | ハイブリッド車や電気自動車を動かす電池。二輪などのL区分の車では、25kgを超えるもの |
| 産業用電池 | 産業用に設計された電池と、ほかの区分に当たらない5kg超の電池。据え置き型の蓄電システムもここに入る |
1つの電池が2つ以上の区分に当たるときは、要件の最も厳しい区分として扱います(第1条第3項)。セルやモジュールを、そのまま最終の用途に売る場合もあります。その場合は電池とみなし、最も近い区分の要件をかけます(第1条第4項)。
多くの要件は、区分と容量で対象が決まります。カーボンフットプリント、再生材、電池パスポートでは、「2kWhを超える産業用電池」がよく出てきます。
上流に求められうる情報 欧州委員会のFAQによると、輸入したセルやモジュールは、EUで電池に組み立てる部品にすぎないなら、ふつうは完成した電池として扱いません。電池パスポートの義務は、大きな機械や車両ではなく、完成した電池に付きます。上流に求められうる情報は、規則の条文から読み取れます。
| 要件 | 上流にかかわる記載 |
|---|---|
| デューデリジェンス | 原材料の名前と種類、仕入れ先の名前と住所、原産国、採掘からの取引、電池に含まれる量を記録する(第49条第2項)。仕入れ先の第三者の検証の報告は、下流に渡す |
| カーボンフットプリント | 原材料の採掘から電池の部品の製造までが、算定の範囲に入る(附属書Ⅱ)。正極の材料と電子部品は正確に特定する |
| 再生材 | 活物質のコバルト、リチウム、ニッケルのうち、回収した材料の割合を、モデル・年・工場ごとに示す(第8条) |
| 電池パスポート | 正極・負極・電解液の材料、部品の番号、分解の情報を載せる(附属書XIII) |
欧州委員会のFAQによると、結果の算定や裏付けのためにサプライチェーンのデータを集める必要が出ることがあります。デューデリジェンスの事業者は、得た情報をすぐ下流の買い手に渡します(第52条第2項)。集めたデータをすべてパスポートに載せる必要はありません。下流に情報を渡すときは、営業の秘密に配慮します。
開始日が下位の法令で決まる要件 開始日の多くは、発効日から数えた月数で決まっています。次の要件は、委任規則や実施規則の発効から数えた日と比べ、遅いほうになります。
| 要件 | 開始日 |
|---|---|
| 一般の情報のラベル | 2026年8月18日か、実施規則の発効の18か月後の遅いほう |
| EV用のカーボンフットプリントの申告 | 2025年2月18日か、委任規則・実施規則の発効の12か月後の遅いほう |
| 充電式の産業用のカーボンフットプリントの申告。外部に蓄える方式だけのものを除く | 2026年2月18日か、同じく18か月後の遅いほう |
| LMTのカーボンフットプリントの申告 | 2028年8月18日か、同じく18か月後の遅いほう |
| 再生材の割合の書類 | 2028年8月18日か、委任規則の発効の24か月後の遅いほう |
経過の扱いもあります。再利用、転用、再製造をした電池が、すでに一度市場に出ていたものだとします。その電池には、カーボンフットプリントと再生材の要件をかけません(第7条第5項、第8条第4項)。デューデリジェンスの章も同じです(第47条)。
欧州委員会の2026年9月のFAQは、2027年2月の時点の扱いを示しています。その時点の電池パスポートでは、カーボンフットプリント、再生材、デューデリジェンスの情報はまだ求めません。
1 カーボンフットプリントの申告(第7条)
対象:EV用電池、2kWh超の充電式の産業用電池、LMT電池。開始日:区分ごとに異なり、下位の法令の発効による。
申告は、電池のモデルごと、製造工場ごとに作ります。値は、電池が使用期間に送り出す電力量1kWhあたりのCO2換算のキログラムで示します。申告書には、次の項目が入ります。
算定の範囲は、附属書Ⅱで定めています。原材料の採掘と前処理、電池の製造、販売先への輸送、回収とリサイクルの4段階で、使用の段階は原則として算定に入れません。
カーボンフットプリントの要件は、申告、性能の等級の表示、上限値の順守の3段階で進みます。
2 再生材の含有(第8条)
対象:2kWh超の産業用電池で外部に蓄える方式だけのものを除く、EV用電池、SLI電池。開始日:書類は委任規則の発効により2028年8月18日以後、最低の割合は2031年8月18日から。
対象は、コバルト、鉛、リチウム、ニッケルを含むものに限ります。LMT電池は後から加わります。活物質は、電池の中で電気を生む材料です。
最初は、再生材の割合を書類で示す義務です。廃棄物から回収した材料が、活物質にどれだけ含まれるかを、モデルごと、年ごと、製造工場ごとに示します。その後、最低の割合を満たす義務に変わります。
| 材料 | 2031年8月18日から | 2036年8月18日から |
|---|---|---|
| コバルト | 16% | 26% |
| 鉛 | 85% | 85% |
| リチウム | 6% | 12% |
| ニッケル | 6% | 15% |
欧州委員会は、回収した材料が手に入る見通しなどをもとに、この目標を見直すべきかを評価します(第8条第5項)。
3 原材料のデューデリジェンス(第47条〜第52条)
対象:前々年度の純売上高が4,000万ユーロ以上の事業者。開始日:2027年8月18日。
対象の原材料は、コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルと、その化合物です(附属書Ⅹ)。化合物は、活物質の製造に必要なものに限ります。リスクの区分は、環境・気候・健康、人権・労働、地域社会の3つです。求められることは、次のとおりです。
4 電池パスポート(第77条・第78条)
対象:LMT電池、2kWh超の産業用電池、EV用電池。開始日:2027年2月18日以後に市場に出すもの。
情報は、見られる人によって4つに分かれます(附属書XIII)。
| 見られる人 | 主な情報 |
|---|---|
| 一般の人:モデルの情報 | ラベルの情報、材料の構成、カーボンフットプリント、調達の報告、再生材の割合、容量、電圧、想定の寿命など |
| 正当な利益のある人:モデルの情報 | 正極・負極・電解液の材料の詳しい構成、部品の番号、分解の手順、安全の対策 |
| 通知機関・当局・欧州委員会 | 要件を満たすことを示す試験の結果 |
| 正当な利益のある人:電池1個の情報 | SoHと呼ぶ劣化の状態、原品・再利用品などの区分、充放電の回数、事故などの記録 |
正当な利益のある人とは、修理、再製造、二次利用、リサイクルの事業者などです。誰がどこまで見られるかは、実施規則で決めます(第77条第9項)。
情報を正確で最新に保つ責任は、電池を市場に出した事業者にあります。電池がリサイクルされると、パスポートはなくなります。FAQの答えでは、劣化の状態など使用の中で生まれるデータの欄は、最初に市場に出す時点では空でもかまいません。必須、任意、条件付きの項目は、欧州委員会の手引きの資料に並んでいます。
コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルのどれも含まない電池では、パスポートのデューデリジェンスの報告は要らないと、欧州委員会のFAQは答えています。パスポートの作成は外部の業者に書面で委ねられますが(第77条第4項)、FAQの説明では、法律上の責任は市場に出す事業者に残ります。
5 表示とQRコード(第13条)
対象:すべての電池。開始日:要件ごとに3つが順に始まる。
ラベルには、有害物質、消火剤、0.1%を超えて含む重要原材料も書きます(附属書Ⅵ)。QRコードの読み先は、区分で違います。LMT電池、2kWh超の産業用電池、EV用電池では、電池パスポートにつながります。そのほかの電池では、ラベルの情報やEU適合宣言などにつながります。
ラベルとQRコードは、電池に見やすく消えないように印刷するか刻みます。電池が小さいなどでできないときは、包装と添付の書類に付けます。
6 そのほかの主な要件
リサイクルの事業者には、材料の回収の目標もあります(附属書XII)。2027年末までにリチウムは50%、コバルト、銅、鉛、ニッケルは90%です。2031年末までに、リチウムは80%、ほかの4つは95%です。
電池を市場に出すまでの手続き
適合の審査の方式は、要件で違います(第17条)。カーボンフットプリントと再生材は、品質保証の審査であるモジュールD1か、1個ずつ検証するモジュールGで確かめます。どちらも通知機関がかかわります。
電池パスポートのQRコードと固有の識別子は、ISO/IEC 15459の規格に合わせます(第77条第3項)。登録簿への登録は、電池を市場に出す事業者がします。デューデリジェンスの書類は、方針のもとで作った最後の電池を市場に出してから10年保存します(第48条第3項)。
EUの紛争鉱物規則との関係 規則(EU)2017/821は、すず、タンタル、タングステン、金の調達を調べる規則です。電池規則のデューデリジェンスは、この規則の義務を妨げないと定めています(第47条)。紛争地域・高リスク地域の定義も、紛争鉱物規則のものを使います。
CSDDDの採択後の評価 指令(EU)2024/1760のCSDDDは、企業に人権と環境の調査を求めるEUの指令です。電池規則の第94条第4項は、CSDDDの採択の1年後に評価するよう求めています。電池のデューデリジェンスの義務を改める必要があるかどうかの評価です。
デジタル製品パスポートとの関係 エコデザインのEU法令も、製品ごとの電子の記録を求めます。電池パスポートは、それと完全につながる作りにします(第78条)。
化学物質の規制との関係 REACH規則は、EUの化学物質の登録と制限の規則です。電池の物質の制限は、REACH規則の附属書XVIIの制限に上乗せされます(第6条第1項)。使用済み自動車指令の制限も同じです。
簡素化の改正案 欧州委員会が2025年12月10日にCOM(2025) 981として出した案で、欧州議会の案内のページによると中身は次のとおりです。
2026年9月20日の時点で、案は採択されていません。
実施規則と様式の予定
| 時期 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 2026年10月〜11月 | 正当な利益のある人を定める実施規則の案の意見募集 | 欧州委員会のFAQで見込みとして記載 |
| 未定 | カーボンフットプリントの様式 | 今後の実施規則で定める |
| 時期 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 2026年11月上旬 | 表示やLMT電池のパックの扱いなどを改める簡素化の改正案について、欧州議会の環境委員会が採決 | 欧州議会の予定。案は審議中 |
| 2026年7月(期限) | デューデリジェンスの手引きの公表。期限は改正で延びた | 延期 |
| 未定 | 一般の情報のラベル、カーボンフットプリントの申告の開始日 | 欧州委員会の委任規則と実施規則の発効による |