更新日 2026年11月3日
キリンホールディングスは、SSBJ基準(日本のサステナビリティ開示の基準)に準拠した有価証券報告書で、気候がお金に与える影響をリスクごとに金額で書き、外部の保証も受けました。一方で、Scope3(取引先や製品の使用まで含めた排出)の数字は、初年度に使える省略を使って載せていません。
良い点は、お金の影響を金額で書いたこと、保証を受けたこと、業種の指標を見える形で使ったことの3つです。
リスクごとに金額と対応策を並べた。農産物の収量減は、2050年に2℃シナリオで「約12億円~約32億円」、4℃シナリオで「約31億円~約122億円」と幅で示し、同じ行に大麦に依存しない醸造技術などの対応策を書いています。準拠を表明したもう1社のみずほは、将来の影響を「定量的に捉えることは有用ではありません」として数字を出していません。
外部の保証を受けた。ガバナンス、リスク管理、Scope1・2排出量と一部の指標について、KPMGあずさサステナビリティの限定的保証(監査より手続きの範囲が狭い保証)を受けています。キリン、みずほ、MUFG、日本航空の4社で、保証を受けたと書いたのはキリンだけです。
業種ごとの指標に印を付けた。指標の表では、エネルギー総消費量や生産拠点数に「産業別ガイダンス」の印を付けています。酒類・清涼飲料・加工食品の指標のどれを使ったかが表から分かり、MUFGのように産業別の指標を「適用していません」とする会社より一歩進んでいます。
足りないのは、Scope3の数字、前の年との比較、保証の範囲の3つです。
Scope3の数字がない。気候基準第103項(2)の経過措置を使い、Scope3排出量を載せていません。2030年までにScope3を30%減らす目標を置いていますが、出発点となる量はこの書類からは分かりません。みずほとMUFGは、投融資先の排出(Scope3のカテゴリー15)を数字で載せています。
前の年と比べられない。比較情報(前の年度の数字)も経過措置で省いているため、Scope1が375,414tCO2eという数字が前の年より増えたか減ったかは、この書類だけでは読めません。
保証は戦略の節に及ばない。保証の対象はガバナンス、リスク管理、Scope1・2排出量と一部の指標で、戦略の節にある財務影響の試算は入っていません。いちばん目を引く金額の部分は、外部の確認を受けていません。
| 項目(SSBJが求めること) | この会社 | 評価 |
|---|---|---|
| 時間軸 短期・中期・長期が何年かを決めて書く | 短期は1年、中期は2〜3年、長期は4〜10年 | ○ |
| 財務への影響 気候が売上・費用・資産に与える影響を、できれば金額で書く | 農産物の収量減「約31億円~約122億円」(2050年、4℃)など、リスクごとに金額 | ○ |
| シナリオ分析 気温が上がる道筋をいくつか置いて、会社が耐えられるかを見る | 1.5℃・2℃と4℃の2つ。2030年と2050年を分析 | ○ |
| Scope1・2 自社が出した温室効果ガスの量を書く | Scope1は375,414tCO2e、Scope2(マーケット基準)は190,705tCO2e | ○ |
| Scope3 取引先や製品の使用まで含めた量を書く(初年度は省略できる) | 経過措置を使い、載せていない | × |
| 移行計画 排出を減らしていく道筋を書く(ある場合) | SBTの1.5℃水準に合わせ、2030年にScope1・2を50%、Scope3を30%減らす(2019年比) | ○ |
| 産業別の指標 業種ごとに決まった指標を書く(SASBがもと) | 酒類・清涼飲料・加工食品の産業別ガイダンスを参照し、指標の表に印 | ○ |
| 第三者保証 外部の機関が数字を確かめたか | KPMGあずさサステナビリティの限定的保証 | ○ |
| 経過措置 初年度に使える省略(比較情報、Scope3など)を使ったと書いているか | 比較情報とScope3の省略を、根拠の条文つきで書く | ○ |
準拠の表明、お金の影響の金額、第三者保証の3つがそろったのは、SSBJに触れた110社の中でキリンだけです。110社のうち準拠を表明したのは2社、影響を金額で書いたのは16社、保証を受けたと書いたのは31社で、金額と保証の両方があるのはキリンを含む7社です。