サステナビリティ情報の第三者保証
日本の開示基準であるSSBJ基準で有価証券報告書(有報)を書く義務のある会社は、その翌年度から第三者保証を受けることになりました。上場会社が決算のたびに金融庁へ出す有報の、温室効果ガスの排出量などを、国に登録した保証業務提供者(監査法人や認証機関などの保証機関)が確かめ、投資家が信頼して使えるようにする決まりです。最初に受けるのは平均時価総額3兆円以上の会社で、3月決算なら2028年3月期からです。
保証を受ける側か、提供する側か
| 立場 | 当てはまる条件 | 備えること |
|---|---|---|
| 保証を受ける義務がかかる会社 | 東証プライム市場に上場し、直近5期末の時価総額の平均が1兆円以上で、SSBJ基準で書く義務がある。各期末の時価総額は取引所や証券会社の株価情報で確かめられる | SSBJ基準の義務が始まる年度の翌年度に備える |
| 義務のない会社 | プライム市場で平均1兆円未満か、スタンダード市場・グロース市場に上場 | いまは受けなくてよい。プライム市場の5千億円以上へ広げる方針は出ている |
| 保証機関になる会社 | 監査法人と、それ以外の法人 | 2027年4月に始まる登録制の要件を確かめる |
担い手は監査法人に限らない
- 保証の担い手は、監査法人以外からも選べます。ただし、有報のサステナビリティ情報の作成を手伝っている先には頼めません。作成業務で継続して報酬を受ける関係は、法律上の「特別の利害関係」にあたるためです。
- 当初2年間の範囲は、Scope1・2の排出量と、ガバナンス、リスク管理の記載に限られます。Scope1・2は燃料の燃焼と購入した電気・熱による自社の排出で、後の2つには気候などの問題を誰が監督し、リスクをどう管理しているかが書かれます。戦略や、取引先などの排出を数えるScope3は入らず、水準も決算書の監査より手続きを絞った限定的保証です。
- 保証が始まる年は、二段階開示を使える2年目と重なります。集計に時間のかかるSSBJ基準の部分だけを後から訂正報告書で書き足すやり方で、有報そのものの提出期限は変わりません。
3月決算なら2028年3月期から保証
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2026年(済) | SSBJ基準で書く会社と時期を定めた開示府令が改正され、保証を定めた改正金融商品取引法が公布された |
| 2027年3月期 | 平均時価総額3兆円以上の会社が、SSBJ基準の開示を始める。2027年4月1日に、保証機関の登録制が始まる |
| 2028年3月期 | 3兆円以上の会社が保証を受け始める。1兆円以上3兆円未満の会社がSSBJ基準の開示を始める |
| 2029年3月期 | 1兆円以上3兆円未満の会社が保証を受け始める(方針) |
保証を受ける会社と、保証機関になる会社の準備
保証を受ける義務がかかる会社
- SSBJ基準の義務が始まる年度を確かめ、その翌年度を保証の初年度として押さえます。
- 当初2年間の範囲にあたる記載が、有報のどこにあるかを確かめます。
- 経理と監査役等で、国に登録した保証機関の中から利害関係のない先を選びます。
- 契約の前に、保証機関が連絡する相手を取締役会や監査役等から決め、監査人とのやり取りに関わる秘密保持の扱いも合意します。
保証機関になる会社
- 国内の営業所や事務所、資本金の額、担当者の知識と経験など、登録の要件を確かめます。
- 同じ顧客に開示の作成支援と保証の両方はできないので、どちらを受けるかを顧客ごとに決めます。
監査法人と別の会社に頼めるか、担当は会計士か
Q 決算書の監査法人と別の会社に保証を頼めますか。
A 頼めます。保証の基準を議論する国の部会に出された案は、保証機関と監査人が異なる場合を想定しています。
Q 保証の担当者は公認会計士でなければなりませんか。
A 公認会計士に限らない方向です。金融庁が専門家の意見を聞く金融審議会の作業部会(WG)は、報告で、公認会計士に限る必要はないと述べています。担当者に求める知識と経験の基準は、これから内閣府令で定めます。
細かい決まり金商法第26条の5以下、登録の要件、ISSA 5000
法律と条文上の呼び名 2026年7月に成立した改正金融商品取引法(令和8年法律第64号)が、保証の義務と、保証業務提供者の登録制を定めました。条文では保証を「監査証明」と呼びます。保証の対象の情報は「特定非財務情報」、登録した保証業務提供者は「特定非財務情報監査証明業者」です。金融庁の審議会の資料では「保証」と呼びます。
対象会社の決まり方 保証を受けるのはSSBJ基準で有報を書く義務がある会社で、条文では「特定提出者」と呼び、範囲は政令で定めます。内閣府令では、3兆円以上の会社は「2027年3月31日以後に終わる事業年度」から適用です。保証の時期は、WGの報告(2026年1月)が示しました。
| 平均時価総額 | 決まり方 |
|---|---|
| 3兆円以上 | 開示は内閣府令で決定済み。保証の時期は審議会の報告と意見書案 |
| 1兆円以上3兆円未満 | 同上 |
| 5千億円以上1兆円未満 | 審議会の報告の方針。内閣府令ではまだ定めていない |
| 5千億円未満 | 企業の開示の状況や投資家のニーズを踏まえて検討 |
義務の対象でない一部の会社が任意に受ける保証の根拠は、金商法第26条の5第6項です。
二段階開示と提出期限 二段階開示は経過措置で、SSBJ基準を使う最初の年度と翌年度に認められます。訂正報告書は翌期の半期報告書の提出期限までに出します。有報の提出期限の延長は、やむを得ない理由があり、承認を受けた場合に限られ、WGの報告はこの承認を柔軟に使えるようにすることを示しました。
当初2年間の範囲と水準 有報のサステナビリティ情報は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つに分けて書きます。
金商法第26条の5第1項は、投資判断への影響が少ない情報を、内閣府令で保証の対象から外せる作りです。意見書案は、保証の範囲と、評価に使う基準である適合する規準を法令ではっきりさせる必要があると指摘しています。
限定的保証では、重要な誤りがあると考えさせる事項が見つかったかどうかを、結論として報告します。合理的保証への移行は検討しないことが適当だと、WGの報告はしています。
会社と保証業務提供者の役割 情報の作成の責任と、関連する内部統制の責任は経営者にあります。保証業務提供者は証拠を集め、保証の対象でない記載、いわゆるその他の記載内容も読んで、保証の対象との食い違いがないかを検討します。範囲の外のサステナビリティ情報も、このその他の記載内容に入ります。保証業務提供者と監査人が別になる場合、その他の記載内容には決算書と監査報告書も入ります。
任意の保証の報告書の添付 いま受けている任意の保証の報告書を有報に付けられるのは、3つの条件を満たす場合です。SSBJ基準の情報であること、登録した保証業務提供者の保証であること、国際基準と整合する基準による保証であることです。条件を満たさない場合は添付を認めるべきでない、というのがWGの報告の立場です。有報に書くなら、保証業務提供者の名前、登録の有無、準拠した基準、結論を示すよう求めるべきだとしました。制度の保証ではないことも示します。
保証業務提供者の登録要件 保証業務提供者は内閣総理大臣の登録を受け、実際の審査と監督は金融庁が担います。登録できるのは法人だけで、個人は登録できません。
| 登録の要件 | 条文 |
|---|---|
| 法人であること | 第26条の9第1号 |
| 業務を公正・適確に行う人の体制などが整っていること。中身は内閣府令で定める | 同第5号 |
| 資本金か出資の総額が、政令で定める額以上であること | 同第6号 |
| 国内に営業所か事務所があること | 同第7号 |
| 業務執行担当者が、知識と経験の基準を満たすこと。基準は内閣府令で定める | 同第10号ニ |
| 登録の取消しから5年たっていない法人などでないこと | 同第2号ほか |
業務執行担当者は、保証の業務の執行を担当する役員や使用人です。品質管理の部門か担当者を置くことと、審査担当者を十分に確保することも、登録の要件にすべきだとWGの報告はしています。審査担当者は、チームの重要な判断と結論を、チームとは別の立場から評価する人です。登録簿は、誰でも見られるように公開されます(第26条の8第2項)。
独立性と業務のルール 登録業者と役員、使用人は、独立した立場で公正かつ誠実に業務を行う義務を負います(第26条の11)。主なルールは次のとおりです。
| ルール | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 利害関係のある会社の保証の禁止 | 株式や出資の関係、役員の行き来、情報の作成業務などで継続して報酬を受ける関係があると、保証できない。作成業務の関係は第2項第5号。対象の業務の詳細は内閣府令で定める | 第26条の5第2項、第26条の16 |
| 担当者のローテーション | 同じ会社を、7事業年度の範囲内で政令が定める期間続けて担当したら、その後の一定期間は外れる | 第26条の17 |
| 就職の制限 | 担当者は、対象の年度の翌年度が終わるまで、その会社や子会社の役員に就けない | 第26条の18 |
| 秘密の保持 | 職務で知った秘密を漏らしたり盗用したりしない。辞めたあとも同じ | 第26条の12 |
| 名義貸しの禁止 | 自分の名義で、他人に保証の業務をさせない | 第26条の14 |
| 研修 | 担当者に、資質を高める研修を受けさせる | 第26条の19 |
| 書類と報告 | 業務の書類を作って保存する。毎年度の終わりから3か月以内に、計算書類と事業報告書を出す | 第26条の20、第26条の21 |
保証は内閣府令で定める基準と手続きで行います(第26条の5第3項)。登録業者は担当者にその基準どおりに業務をさせる義務を負います(第26条の15)。登録の内容が変わったときは、2週間以内に届け出ます。
金融庁の監督と、処分・民事責任 金融庁は登録業者に報告を求め、立ち入って検査できます。保証を受けた会社や、業務の委託先も検査の対象です(第26条の27)。虚偽の記載を見逃して保証した場合などには、行政処分があります。処分は業務の体制の改善命令、2年以内の業務停止、登録の取消しです(第26条の24)。不正な保証があったときは、その会社が保証した書類を、1年以内の期間受け付けないこともできます(第26条の5第4項)。
金融庁の法案の説明資料によると、改正法には課徴金と民事責任の規定もあります。民事責任では、故意や過失がなかったことを保証業務提供者の側が証明します。
会社の側にはセーフハーバー・ルールがあります。将来の情報、見積りの情報、Scope3のように第三者から得た情報について、一定の条件で民事責任を負わない決まりです。会社にこのルールが当てはまる場合、保証業務提供者も民事責任を負いません。
法律には登録業者がつくる協会を国が認定する規定もあります(第26条の29)。それでも当面の検査と監督は、自主規制の団体でなく金融庁が行う方針です。
保証の基準とISSA 5000 保証の基準を議論しているのは、企業会計審議会のサステナビリティ情報保証部会です。部会は2026年4月に設けられ、5月から審議しています。意見書案は2026年10月29日の第3回部会に出され、日付が空欄です。
| 分野 | 名称の案 | もとになる国際基準 | もとになる国内の文書 |
|---|---|---|---|
| 保証 | JSSA 5000「サステナビリティ保証業務基準5000」 | ISSA 5000 | 日本公認会計士協会「サステナビリティ保証業務実務指針5000」(2026年3月) |
| 品質管理 | JSQM 1「保証業務実施者の品質管理基準」 | ISQM 1 | 同協会「品質管理基準報告書第1号」(2026年3月) |
| 倫理と独立性 | JESSA。保証の倫理と独立性の基準 | IESSA | 国際倫理基準の改訂の翻訳(2026年4月) |
ISSA 5000はサステナビリティ情報の保証の国際基準です。国際監査・保証基準審議会のIAASBが2024年11月に公表し、2026年12月15日以後に始まる期間から適用されます。ISSA 5000は会計士以外の保証の担い手も使える前提で作られ、限定的保証と合理的保証の両方を扱います。IESSAは国際会計士倫理基準審議会が2025年1月に公表した、倫理と独立性の国際基準です。ISQM 1はIAASBの品質管理の国際基準です。
意見書案は日本の基準を原則として国際基準と同じ内容にし、日本の事情に合わせた調整を加える方針です。基準を作る役は金融庁が適当だと見ています。保証の担い手の自主規制の団体が、いまはないためです。意見書案が基準に入れるべき点として挙げた主な事項です。
- 経営者がサステナビリティ情報の作成に責任を負い、保証業務提供者は独立の立場から保証する
- 決算書の監査人と別の会社が保証する場合の、両者の連絡と秘密保持の合意
- 保証業務提供者が連絡する「ガバナンスに責任を負う者」を、契約の前に決めておく
- 審査を求める。国際品質マネジメント基準第2号のISQM 2を踏まえる
- 保証業務提供者が代わるときの引継ぎと、複数社による共同の保証を、要求事項にする
意見書そのものは、新しい要求事項を定めるものではありません。守る対象はこれから作る基準です。
CSRD・海外の保証制度との比較 SSBJ基準は、ISSB基準と機能の面でそろえてあります。保証の基準のもとになるISSA 5000は、ISSB基準、欧州の基準、SSBJ基準のどれにも使えます。EUの企業サステナビリティ報告指令、CSRDも、開示とあわせて第三者の保証を義務づけています。2026年2月に採択された見直し後のCSRDは、限定的保証の基準を2027年7月1日までに採択するよう求めています。
| 国・地域 | 保証の範囲 | 水準 | 担い手 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 当初2年間はScope1・2、ガバナンス、リスク管理 | 限定的保証 | 監査法人と、それ以外の登録業者 |
| フランス | 欧州の報告基準ESRSの全ての開示 | 限定的保証 | 監査法人と、認定を受けたそれ以外の業者 |
| ドイツ(案) | ESRSの全ての開示 | 限定的保証 | 監査法人 |
| オーストラリア | 気候の開示の全て | 段階を踏んで合理的保証へ | 監査法人 |
| 英国(案) | 今後検討 | 今後検討 | 監査法人と、それ以外の業者。登録は任意 |
3月決算の区分ごとの開始時期 開示の義務は東京証券取引所のプライム市場の上場会社に時価総額の大きい順にかかり、保証はその1年後から始まります。平均時価総額は、前期末からさかのぼった5つの事業年度末の時価総額の平均です。SSBJ基準は、SSBJが2025年3月に公表した日本の開示基準です。
| 平均時価総額 | SSBJ基準の義務 | 保証 |
|---|---|---|
| 3兆円以上 | 2027年3月期 | 2028年3月期から |
| 1兆円以上3兆円未満 | 2028年3月期 | 2029年3月期から |
| 5千億円以上1兆円未満 | 2029年3月期 | 2026年1月のWGの報告の方針では2030年3月期から |
| 5千億円未満 | ― | 企業の開示の状況や投資家のニーズを踏まえて今後検討 |
| SSBJ基準の義務の対象でない会社 | ― | 義務はない。一部の会社は、同じ仕組みの保証を任意に受けられる |
これまでとこれからの日程
| 時期 | すること |
|---|---|
| 2026年2月20日(済) | SSBJ基準の開示の対象と時期を定める内閣府令が公布・施行された |
| 2026年7月23日(済) | 7月に成立した改正金融商品取引法が公布された |
| 2026年10月29日(済) | 国の審議会の部会に、保証の基準の作り方を示す意見書案が出された |
| 2027年3月末 | 意見書案が、保証の基準ができていることを望む時期 |
| 2027年4月1日 | 改正法の開示と保証の部分が施行され、保証業務提供者の登録制が始まる |
| 2028年3月期 | 3兆円以上の会社が保証を受け始める年度で、二段階開示を使える2年目でもある |
提出の段取り 期末から3か月以内に有報を出し、二段階開示を使うなら、翌期の半期報告書の期限までに訂正報告書を出します。
Scope3の保証 Scope3の排出量は、当初2年間の義務の範囲に入っていません。WGの報告は、義務の対象の会社がScope3の保証を受けることを「任意の保証」の例に挙げています。
これから決まる細部 意見書は案の段階です。保証の範囲と基準を定める内閣府令の案は、まだ出ていません。ローテーションの年数と資本金の額は、政令で決めます。範囲を絞る「2年間」は、WGの報告と意見書案で「第三者保証制度の適用開始時期から2年間」とされています。保証業務提供者の選任理由と報酬の開示は、WGの報告が「求めることが考えられる」とした段階です。
手続きの基準と3年目以降の範囲は未定
| 項目 | 状態(2026年11月1日時点) |
|---|---|
| 保証機関が従う手続きの基準。名称の案はJSSA 5000など | 2027年3月末までの策定が望まれている。金融庁が関係者と協議して作る |
| 3年目以降の保証の範囲 | 国際動向などを踏まえて今後検討。未定 |
| 平均時価総額1兆円未満の会社 | 5千億円以上は、開示が2029年3月期・保証が2030年3月期からの方針で、国の決まりにはまだない。5千億円未満は開示と保証の両方とも今後検討 |
出典
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」(令和8年法律第64号による改正、2027年4月1日施行の条文)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025
- 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告」(2026年1月8日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20260108/01.pdf
- 企業会計審議会 第3回サステナビリティ情報保証部会 資料1「サステナビリティ情報の保証業務に関する基準、品質管理に関する基準及び倫理・独立性に関する基準の設定について(意見書案)」(2026年10月29日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/hoshou/20261029/01.pdf
- 金融庁「事務局説明資料(サステナビリティ情報の開示・保証)」企業会計審議会総会(2026年4月24日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20260424/01.pdf
- 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』等の公布及びパブリックコメントの結果について」(2026年2月20日)https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20260220/20260220.html
- IAASB「Understanding the International Standard on Sustainability Assurance 5000」https://www.iaasb.org/focus-areas/understanding-international-standard-sustainability-assurance-5000