更新日 2026年11月1日

制度の解説|サプライチェーン・人権

EUのCSDDD(オムニバス後)

CSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令)は、大企業に、自社と取引先の事業で起きる人権と環境への悪影響を特定し、防止し、停止するよう求めるEUの法律です。サプライチェーンの上流で起きる児童労働や環境破壊の責任を、EUで大きく稼ぐ会社に負わせるもので、日本の会社もEU域内の売上だけで対象になりえます。2026年の見直しで対象は大きく絞られ、国内法の適用は2029年7月に始まります。

制度の解説CSDDD

EU域内の売上が15億ユーロを超えるか

会社判定のよりどころやること
デューデリジェンスを負う会社日本の会社のEU域内の純売上高が、グループの連結を含めて2年続けて15億ユーロ超。またはEUの子会社が単体で、平均従業員5,000人超かつ世界の純売上高も同じ基準超。グループのEU域内売上を年度ごとに集計して判定する自社と取引先の悪影響を特定し、防止・停止する手続きを回す
EUの顧客から質問票が届く会社EUの大企業や、日本の取引先のEU子会社から、取引先向けの行動規範や契約の条項、質問票が届く。人権と環境の項目があるかは契約書で分かる求めに応じて情報を出す
EUの大企業と取引がない会社EUの大企業と取引がない。投資ファンドや、基準に届かない中小企業も対象外義務も依頼もない。2031年の見直しで、EUが対象を広げるかを調べる

取引先への求めに歯止め、域外は売上だけで判定

  1. 取引先への求めには歯止めがあります。従業員数が基準に届かない取引先に情報を求めるのは、ほかの方法で得られない場合に限られ、中小企業との契約は公正で差別のない条件にします。
  2. 域外の会社には、従業員数の条件がありません。日本の親会社の従業員が少なくても、EU域内の純売上高だけで対象になり、当局との連絡役になる代理人をEU域内に置きます。

国内法は2028年7月、適用は2029年7月から

時期すること
2024年・2026年(済)CSDDDが発効し、2026年3月の見直しで対象が絞られた
2027年7月26日欧州委員会が主な手引きと、任意のひな形の契約条項の手引きを出す期限
2028年7月26日加盟国が、会社に直接かかる国内法を作って公表する期限
2029年7月26日すべての対象企業に国内法の適用が始まる
2030年1月1日以後に始まる年度対象企業が、取り組みを毎年まとめた年次の声明をウェブサイトで出す

15億ユーロに近いグループ、質問票を受けた取引先

EU域内の売上が15億ユーロに近いとき

  1. グループ全体のEU域内の純売上高を年度ごとに集計し、基準を超える年が2年続くかを確かめます。
  2. EUの子会社ごとに、平均従業員数と世界の純売上高の両方が基準を超えるかを、経理と人事の数字で確かめます。
  3. 対象になるなら、EU域内に置く代理人と、調査や罰金を受け持つ監督当局を確かめます。支店のない会社では、EU域内の売上がいちばん多い国の当局です。

EUの顧客から質問票や契約の条項が届いたとき

  1. 児童労働、強制労働、賃金、環境など、聞かれている項目を書き出します。
  2. 仕入れ先の名前と所在地は購買に、自社の労働条件は人事にあります。
  3. 営業秘密は出す義務がありませんが、仕入れ先の名前と、悪影響を見つけるのに欠かせない情報は別です。

質問票に答える義務はあるか

Q 日本の取引先として、EUの顧客から詳しい質問票が届きました。答える義務はありますか。
A 取引先に直接の義務はありません。CSDDDの義務を負うのは対象企業で、対象企業は必要な情報だけを求めることになっています。

Q 日本の親会社の従業員は2,000人ですが、EU域内の売上は16億ユーロあります。対象になりますか。
A 直近の年度の前の年度に15億ユーロを超え、それが2年続けば対象です。

Q 取引先のすべてを調べる必要がありますか。
A 条文は、すべての悪影響を見つけることまでは求めていません。前文によると、適切な措置をとった会社は、見つからなかった影響で罰せられません。

細かい決まり付属書の範囲、第5条の8つの行動、罰金3%と民事責任

根拠 CSDDDは指令(EU)2024/1760で、2024年7月25日に発効しました。対象は、自社と子会社、取引先の事業で起きる悪影響で、CSDDDはデューデリジェンスの手順を条文で定めています。

欧州委員会は2025年2月26日、オムニバスと呼ばれる簡素化の法案群を出しました。まず、適用の時期を延ばす指令(EU)2025/794が、2025年4月16日にEU官報に載りました。2025年12月9日に欧州議会と理事会が暫定合意し、中身を改める部分は2026年2月24日に指令(EU)2026/470として採択、2月26日にEU官報に載りました。見直しの中身は、対象の縮小、調査の範囲の絞り込み、移行計画の義務の削除、民事責任と罰金の見直しなどです。

時期中身
2024年7月25日(済)CSDDDが発効した
2026年3月18日(済)CSDDDを見直す指令が発効した
2028年7月26日加盟国が国内法を公表し、監督当局の名前を欧州委員会に知らせる期限
2029年3月31日欧州委員会が年次の声明の中身を定める期限
2031年1月1日対象企業が年次の声明を、EUの共通の情報窓口(ESAP)にも出す

対象の判定の細部 対象は、EUの法律で作られた会社と、EU域外の国の法律で作られた会社に分かれます。条件はいずれかを満たせばよく、区分ごとの条件は次のとおりです。

区分条件
EUの会社直近の年度に、平均従業員5,000人超かつ世界の純売上高15億ユーロ超
EUの最終親会社単体では届かないが、グループとして上の基準に届く
EUのフランチャイズなどEUでのロイヤルティが7,500万ユーロ超、かつ世界の純売上高2億7,500万ユーロ超
域外の会社直近の年度の前の年度に、EU域内の純売上高15億ユーロ超
域外の最終親会社単体では届かないが、グループの連結で上の基準に届く

投資ファンドのAIFとUCITSは対象外です。直近の2年とも条件を満たさなくなると、対象から外れます。従業員数は、短時間で働く社員をフルタイムに換算して数えます。派遣社員なども、一定の条件で数に入ります。

表の条件のほか、EUでのロイヤルティが7,500万ユーロ超、かつEU域内の純売上高2億7,500万ユーロ超のフランチャイズなども対象です。

純売上高は、会計指令の定義によります。国際会計基準を使う会社と域外の会社は、自社の会計の枠組みでの収益で判定します。

改正前の基準は、従業員1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超でした。フランチャイズなどの基準も、ロイヤルティ2,250万ユーロ超、売上8,000万ユーロ超から上がりました。

最終親会社が株式の保有を主な事業とし、グループの経営の判断をしない場合は、免除を受けられます。条件は、EU域内の子会社1社を指名し、義務を代わりに果たさせることです。免除は監督当局に申請します。親会社は、指名した子会社と連帯して責任を負います。

対象になる人権と環境の範囲 何が悪影響に当たるかは、指令の付属書が国際条約を挙げて定めています。第1部は人権、第2部は環境です。

区分主な項目
人権:第1部第1節の16項目生命の権利、拷問の禁止、公正な労働条件と賃金、児童労働と強制労働の禁止、結社の自由、差別の禁止、土地への権利など
環境:第2部生物多様性条約、ワシントン条約、水銀の水俣条約、POPs条約、有害廃棄物のバーゼル条約など

児童労働の禁止では、義務教育を終える年齢より下の子どもを雇うことを禁じます。その年齢は、現地の法律による例外を除き、15歳を下回りません。

活動の連鎖の上流は、製品やサービスに関わる取引先の活動です。設計、原料の採掘と調達、製造、輸送、保管、供給が入ります。下流は、自社のために製品の流通、輸送、保管をする取引先の活動だけです。サービスの下流は入りません。銀行や保険などの金融機関は、上流の取引先だけが対象です。

求められること 指令の第5条は、デューデリジェンスの中身を8つの行動として定めています。オムニバスで、いくつかの行動の範囲が狭まりました。

行動(条文)求められること
方針への組み込み(第7条)デューデリジェンスの方針と行動規範を作り、社内の仕組みに組み込む。少なくとも24か月ごとに見直す
悪影響の特定と評価(第8条)まず手に入る情報だけで、影響が起きやすく重い分野を洗い出す。その分野を詳しく評価する
優先順位(第9条)すべてに同時に対応できなければ、重さと起きやすさで順位を付ける
防止と停止(第10条・第11条)行動計画、取引先からの契約上の保証、設備への投資、調達の慣行の見直し、中小企業への支援など
是正(第12条)自社が引き起こした悪影響は、自社が是正する
関係者との対話(第13条)特定、行動計画づくり、是正の各段階で、直接影響を受ける人や労働組合などと協議する
苦情と通報の仕組み(第14条)影響を受ける人や労働組合などが苦情を出せる手続きと、誰でも通報できる窓口を設ける
効果の確認(第15条)取り組みの効果を評価する。間隔は少なくとも5年ごとで、改正前は12か月ごとだった
公表(第16条)年次の声明をウェブサイトで公表する

取り組みの記録は、証拠を含めて少なくとも5年保存します。

洗い出しの段階では、原則として取引先に情報を求めません。詳しい評価で取引先に情報を求めるのは、必要な場合だけです。同じ程度の分野が複数あれば、直接の取引先の分野を先に評価できます。

防止や停止ができないときの最後の手段も改められました。会社は、その取引先との新しい取引や延長を控えます。契約の準拠法が認めれば、取引を一時停止します。そのうえで、強化した行動計画を作って実行します。

改正前の条文にあった「取引の終了」は、新しい条文から外れました。停止による悪影響が明らかに重いと見込まれる場合は、停止は求められません。

関係者の定義も狭まりました。現在は、社員や取引先の社員、その労働組合、直接影響を受ける個人や地域社会などです。

業界の取り組みは、情報を得る手段や協議の場として使えます。ただし、参加していても国内法に基づく責任を問われることがあります。自社の社員との協議は、業界の取り組みでは代えられません。

移行計画の義務の扱い 改正前の第22条は、事業の戦略を1.5℃の目標と合わせる気候変動の移行計画を作り、実行することを求めていました。計画には、2030年から2050年まで5年ごとの目標と、温室効果ガスのスコープ1〜3の削減目標が必要でした。

見直しの指令は、第22条を削除しました。指令の前文は、負担が釣り合わず、法的な不確かさを生むおそれがあることを理由に挙げています。監督当局が移行計画を監督する規定と、移行計画の手引きを作る規定も消えました。

改正前の第22条は、CSRDで移行計画を報告すれば義務を果たしたとみなしていました。見直しの指令は、CSRDの移行計画を報告する規定を削っていません。

CSDDDの移行計画の義務はなくなっても、CSRDの対象の会社には、CSRDの側の報告の規定がかかり続けます。

罰則と民事責任 監督当局は、情報の提出を命じ、調査し、違反の停止を命じ、罰金を科せます。

論点改正前改正後
罰金の上限世界の純売上高の5%以上に設定世界の純売上高の3%にそろえる
罰金の決め方世界の純売上高に基づいて決めるこの規定を削除。欧州委員会が額の決め方の手引きを出す
グループの場合最終親会社の連結売上を考慮最終親会社の連結の世界売上の3%
民事責任の要件EU共通の要件を条文で定めた削除。各国の法律による
損害の賠償完全な賠償を受ける権利国内法で責任を負う場合に、完全な賠償を受ける権利を保障
団体による訴え労働組合やNGOに訴えを託せる条件を設けるこの義務を削除
他国の法律が使われる場合国内法を優先して適用させるこの義務を削除

罰金の基準となる売上は、罰金を科す決定の前の年度の数字です。罰金を期限までに払わなければ、会社の名前と違反の中身が公表されます。罰金の決定は公表され、少なくとも5年間見られる状態に置かれます。

民事責任でも、残った規定があります。訴えの期限は少なくとも5年です。裁判所は、会社に証拠の開示を命じられます。懲罰的な賠償など、損害を超える賠償は認めません。

順位を付けたうえで重さの低い悪影響に手が回らなかった場合、そのことだけでは罰金の対象になりません。強化した行動計画が成功すると見込める間は、取引を続けても罰金や民事責任の対象になりません。

適用の時期と経過措置 当初の指令は、会社の規模に応じて3段階で適用する仕組みでした。見直しの指令は、段階をなくして日付を1つにそろえました。

対象当初の指令見直し後
従業員5,000人超・売上15億ユーロ超。域外は域内売上15億ユーロ超発効から3年後に適用2029年7月26日から適用
従業員3,000人超・売上9億ユーロ超。域外は域内売上9億ユーロ超発効から4年後に適用基準に届かないため対象外
そのほかの対象企業発効から5年後に適用基準に届かなければ対象外
第16条の年次の声明2028年か2029年の1月1日以後に始まる年度から2030年1月1日以後に始まる年度から

国内法の期限は、当初は発効から2年後でした。2025年の指令(EU)2025/794で2027年7月26日に延び、見直しの指令で2028年7月26日になりました。準備をいつ始めるかは、指令は定めていません。年次の声明の中身は、委任法令で定めます。

見直しの指令の前文第46項は、手引きの期限から適用までの2年を、会社が手引きを取り入れる期間と位置づけています。手引きは2段階で出ます。2027年7月26日までに、手順の進め方、リスクの要因の評価、使えるデータと道具の手引きを出します。2028年7月26日までに、情報の共有の仕方と、関係者向けの情報を出します。業種別の手引きには、期限がありません。

日本企業と取引先にかかわる決まり 域外の会社は、代理人を指名し、その連絡先を監督当局に届け出ます。代理人は、監督当局からの連絡を受け、協力します。

域外の会社を監督する当局は、支店がある国の当局です。支店がない場合や複数の国にある場合は、EU域内の売上がいちばん多い国の当局が担当します。監督当局の欧州のネットワークは、対象となる域外の会社の参考の一覧を公表します。

取引先として受ける求めには、条文で定めた歯止めがあります。取引先は、営業秘密を開示する義務を負いません。ただし、取引先の名前や、悪影響の特定に欠かせない情報は別です。

取引先が中小企業のとき、対象企業は契約の条件を公正で差別のないものにします。中小企業の点検を第三者に頼む場合、その費用は対象企業が負担します。

ほかの制度との関係

制度CSDDDとの関係
CSRDCSRDで報告する会社は、CSDDDの年次の声明を出さなくてよい。移行計画の報告の規定はCSRDの側にある
EUのほかの法律同じ目的で、より広いか細かい義務を定める法律があれば、ぶつかる範囲でその法律が優先する
各国の法律グループでの対応、特定と評価、優先順位、防止と停止、苦情の仕組み、効果の確認、公表は、各国が独自に変えられない
日本の政府のガイドライン2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が政府のガイドラインとして決定された

各国が独自に変えられない項目は、見直しで広がりました。改正前は、特定と評価、防止、停止の一部の条文だけでした。ただし加盟国は、特定の製品、サービス、状況を対象にした、より細かい義務を設けることはできます。

CSRDの見直しでは、取引先の中小の会社に求められる情報に上限が設けられました。この上限は、デューデリジェンスのための依頼にはかかりません。

金融機関の融資や投資に特化した義務を検討する報告の規定は、見直しの指令で削除されました。

指令の見直し 欧州委員会が2031年7月26日までに報告し、その後は5年ごとに見直します。2031年の見直しでは、対象を広げるかどうかを調べます。売上4.5億ユーロ超・従業員1,000人超の会社と、リスクの高い業種を加えるかが論点です。

手引きの中身と各国の罰金は未定

予定状況
欧州委員会の手引きと、任意のひな形の契約条項中身は未定
各国の国内法罰金の額や民事責任の細部は国ごとに決まる
年次の声明の中身委任法令で定める。中身は未定